会社が倒産する前に知っておくべき制度として、「未払賃金立替制度」があります。未払賃金立替制度とは、全国の労働基準監督署及び独立行政法人労働者健康福祉機構で制度を実施している制度で、会社が倒産したとき国が会社に代わって未払いの給料や退職金の約8割を立て替えてくれるというものです。
ここでは、未払賃金立替制度の概要を説明しています。
未払賃金立替払制度のメリット
自分で直接交渉せずに必要な手続きを踏むことで、未払賃金のうち最大8割を受けとれます。
- 勤めていた会社が倒産したとき、未払い賃金(退職金含む)のうち、最大8割を受け取ることができる
- アルバイトやパートなど、正社員でなくても受け取ることができる
- 外国人であっても受け取ることができる
- 労働者自身が会社側と交渉する必要がない
- 倒産前に退職した場合、退職の理由は自己都合でも会社都合でもよい
未払賃金立替払制度の利用条件
利用するには、以下の項目を満たしている必要があります。
①会社が倒産していること
裁判所にいわゆる倒産の申立て(破産、民事再生など)をし、それを受けた裁判所が手続き開始の決定を行った、「法律上の倒産」でも、破産等の手続きはしていなくとも、事業活動が停止していて再開の見込みがなく、賃金が払えない状態であることを労働基準監督署が認めた、「事実上の倒産」でも申請できます。ただし、事実上の倒産が認められるのは、中小企業のみです。
②未払いの賃金の総額が2万円以上であること
③会社が1年以上事業活動をしていること
④退職日が倒産の半年前から倒産後1年半の間であること
⑤倒産から2年以内の手続きであること
※正社員だけでなく、アルバイト・パートも対象となりますが、会社を経営していく立場である役員は対象外です。ただし、兼務役員という立場で、役員だけでなく社員としても賃金を受け取っていた場合は利用できます。
未払賃金立替払制度の対象となる賃金
対象となるのは、退職日の6か月前の日から立替払請求をおこなった日の前日までの間に支払期日があり、未払いになっている毎月定期的に支払われる賃金(基本給と通勤・住宅・残業手当などの各種手当)と退職手当です。ボーナスや祝い金などは対象になりません。また、未払賃金立替制度を利用して、受けとれるのは税金(所得税、住民税など)や社会保険料などが控除される前のものです。
未払賃金立替払制度で受け取れる賃金
未払賃金の総額、あるいは限度額のうち、いずれか低い方の8割となります。限度額は、退職日の年齢によって、以下のように決められています。
・退職日の年齢が45歳以上 の場合、限度額は370万円
・退職日の年齢が30歳以上45歳未満の場合、限度額は220万円
・退職日の年齢が30歳未満の場合、限度額は110万円
未払賃金立替払制度の利用までの流れ
正確な未払い賃金の金額を証明するための書類は、労働基準監督署で提示を求められる場合があります。
経営者側とのトラブルを防ぐためにも、以下のような書類の原本、もしくはコピーをあらかじめ用意しておくといいでしょう。
- 過去の給与明細
- タイムカード
- 出勤簿
- 労働契約書
- 就業規則
法律上の倒産をした場合と事実上の倒産をした場合で手続きの方法が異なります。
<法律上の倒産の場合>
①証明書を交付してもらう
証明者、または裁判所から、倒産日や未払い賃金の金額などを証明する証明書を交付してもらいます。
証明者は、手続きの種類によって異なります。
・破産・会社更生の場合:管財人
・民事再生の場合:再生債務者(管財人が選任されている場合には管財人)
・特別清算の場合:清算人
・会社整理の場合:管理人
また、証明書は労働者健康福祉機構のホームページからダウンロードしたり、労働基準監督署に問い合わせたりすることでも入手が可能です。
②証明書に必要事項を記入し、労働者健康福祉機構に提出
①で受け取った証明書の左半分に未払賃金の立替払請求書と退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書があります。この書類に、請求金額や振込先の金融機関、勤続期間、退職日などの必要事項を記入し、労働者健康福祉機構に提出します。証明書は1枚綴りになっているので、切り離さずに提出してください。
③指定した口座に振込まれる
提出した書類が審査され問題がなければ、約30日以内に指定した口座へ立替払金が振り込まれます。
<事実上の倒産の場合>
①労働基準監督署に認定申請書を提出
退職日の翌日から起算して6ヶ月以内に、倒産した会社所在地の労働基準監督署に認定申請書を提出し、事実上の倒産について認定を受けます。他の退職者がすでにこの手続きを済ませている場合は必要ありません。
認定を受けられると、認定通知書が交付されます。
認定申請書は、労働基準監督署に用意されていますが、e-Gov(電子政府の総合窓口)のホームページからダウンロードすることも可能です。
②労働基準監督署に確認申請書を提出
認定通知書が交付されたら、未払賃金を受ける労働者ひとりひとりが個別に、労働基準監督署に確認申請書を提出します。
確認申請書には、住所、氏名、事業所の住所、名称、未払い賃金額などを記載するため、未払い賃金についての資料(給与明細やタイムカード、出勤簿など)も添付します。
確認申請書に問題がなく、未払いを証明する資料もそろっていれば、確認通知書が交付されます。
確認申請書は、労働基準監督署に用意されていますが、e-Gov(電子政府の総合窓口)のホームページからダウンロードすることも可能です。
③確認通知書に必要事項を記入し、労働者健康福祉機構へ提出
確認通知書の左半分には、未払賃金の立替払請求書と退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書があります。この書類に、請求金額や振込先の金融機関、勤続期間、退職日などの必要事項を記入し、労働者健康福祉機構に提出します。証明書は1枚綴りになっているので、切り離さずに提出してください。
④指定した口座に振込まれる
提出書類が審査され問題がなければ、約30日以内に指定した口座へ立替払金が振り込まれます。