売掛金は現金化するまで一定の期間を要するものです。期日が来れば入金されることはわかっていても、今すぐ資金を必要としていて入金まで待てないということもあるでしょう。
そんな時に有効なのがファクタリングといわれる資金調達手法です。ファクタリングは海外では一般的な資金調達手法ですが、日本では認知度が低いため利用するべきか迷う経営者もいるかもしれません。
とはいえ、賢く利用すればキャッシュフローを正常化でき、金融機関の評価も下がらないという利点があります。まずはファクタリングのしくみを知ることから始めてみましょう。
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ファクタリングとは?4種類のファクタリングについて解説!
資金調達手法の1つであるファクタリングとは、企業の売掛金などの債権をファクタリング会社が買い取ることで現金化するサービスのことです。
ファクタリングには業種や引き受け方法によって4つの種類があります。1つは一括ファクタリングと呼ばれる最も基本的な手法で、売掛債権をファクタリング会社が買い取って、その債権分の代金を企業に支払うというものです。一括ファクタリングには売掛債権を支払う企業の合意を取らずに取引を行なう二社間取引、支払企業の合意を取りファクタリング会社が代金回収を行なう三社間取引があります。
また、保証ファクタリングは売掛債権や手形を与信判断したうえで、ファクタリング会社が保証するサービスのことです。ファクタリング会社が債権回収を行い、万一取引先の企業が倒産して支払い不能になった場合にはファクタリング会社が代わりに現金を支払います。
一括ファクタリングとの違いは、あくまでも売上債権に対する保証であるという点です。依頼会社は手数料を払う代わりに、債券が回収できないというリスクを避けることができます。建設会社で多く利用されています。
医療報酬債権ファクタリングは、病院や調剤薬局などの医療機関が国民健康保険や社会保険組合に請求する医療費債権を買い取るサービスです。一括ファクタリングとの違いは、債権の種類が医療報酬債権に限られるという点です。そのため、代金の回収先が国民健康保険や社会保険組合となります。
輸出債権を買い取る国際ファクタリングと呼ばれるサービスもあります。 国際ファクタリングは輸出取引において販売会社が手間や時間を減らし、しかも安心して取引できる支払保証サービスです。海外のファクタリング会社と連携して信用調査や代金の回収が行われます。(※1)
ファクタリングは自社に合っているのか?メリットやデメリットは?
ファクタリングは業種によって利用できる種類が異なります。また、それぞれのファクタリングにはメリットとデメリットがあり、自社の状況に合わせて利用するかどうか判断することが大切です。
一括ファクタリングと保証ファクタリングは、すべての業種で利用できるファクタリングサービスです。一括ファクタリングのメリットは売掛債権をすぐに現金化することができるという点です。それにより、融資に頼らずに資金調達することができます。
一方で、二社間取引では手数料が割高であること、三社間取引では売掛企業にファクタリングを利用していることが知られてしまう点がデメリットです。
保証ファクタリングは、売掛企業が倒産しても代金が保証されること、売掛企業への通知が不要、取引先の経営状況を把握できることがメリットとして挙げられます。デメリットは、保証料が生じること、保証される代金には限度額があること、すぐに資金調達ができない点です。(※2)
また、建築や資材産業では保証ファクタリングの一種として、下請債権保全支援という制度があります。もともとは国土交通省が下請建設企業などの債権を保全するために始めた事業です。
下請債権保全支援を利用することで、保証料の3分の2を国土交通省に負担してもらえます。ただし、この支援を利用できるのは建設や資材産業に限られます。海外との取引には国際ファクタリングのサービスが有効です。製造業や卸売業、小売業などで貿易取引をする際に利用すれば、売掛債権を保証してくれるうえ、回収代行も行ってくれます。
また、貿易取引で必要となる信用状L/C(Letter of Credit)も不要です。ただし、輸出先企業の合意が必要となること、保証料がかかることなどがデメリットとして挙げられます。
医療ファクタリングは、基本的に医療報酬債権を持っている医療機関が利用できるファクタリングサービスです。このサービスを利用すると、国民健康保険や社会保険組合などから債権を回収するよりも早く現金化できます。新設医療機関の現金確保やキャッシュフローの改善に有効です。
一方、手数料が割高であることや、医療機関しか利用できないことがデメリットとなります。ファクタリングは資金調達の手法として、早期に現金化できることや債権回収の保証が得られる点がメリットです。しかし、あくまでも売掛債権に対して利用できるサービスであるため、そもそも売掛債権を持っていない企業は利用することができません。
また、ファクタリングサービスを受けるには審査に通る必要があります。ファクタリングを利用できない場合は、他の資金調達法を考えなければなりません。(※1)
ファクタリングによる資金調達までの流れ
ファクタリングを利用するには、まずはファクタリング会社へ相談することから始まります。電話やメールで必要な金額や期日、売掛金の状況などを説明すると、見積や簡単な審査などをしてもらうことが可能です。相談の段階でファクタリングが利用できるかどうかの仮審査となります。
この段階で、手数料がどのくらいになるのか、二社間取引となるのかなどの詳細を確認することが必要です。相談内容に双方が合意すると、申し込みとなります。ここでのポイントは、手数料や必要経費を確認することです。手数料はファクタリングの種類によっても変わってきます。また、申し込みに必要な書類や資金がいつ入金となるのかも、申し込み時に確認しておきましょう。
申し込みすることが決まったら、必要書類を用意して提出します。必要書類は融資の時に提出する書類とは異なるため事前に確認が必要です。ファクタリング会社によっても提出する書類が違います。書類の提出は郵送やファクタリング会社への持参、FAXなどの方法があります。
三社間取引の場合は、審査前に支払企業の同意書や承諾書への捺印も必要です。書類提出の次は、申し込みをした会社と売掛先の会社の審査です。ファクタリング契約ができるかどうかは、取引先の信用度にもかかわってきます。ファクタリング会社としては、確実に債権を回収できるかどうかが審査のカギとなるのです。与信調査が行われた結果、契約できないこともあります。
無事審査に通ると、次はファクタリング会社との契約です。二社間取引では依頼する会社の事業主とファクタリング会社の間で契約が交わされます。三社間取引では、支払企業の同意を得てからの契約です。一括ファクタリングや医療ファクタリングでは、債券の譲渡契約が結ばれると手数料を差し引いた売掛金がファクタリング会社から早期に入金されます。
その後、支払企業が期日通りに売掛金の支払いを行なうと一連の流れが終了です。(※3)
通常の融資とどう違う?ファクタリングの審査内容
ファクタリングは売掛債権に対して資金が支払われるしくみになっています。そのため、審査内容にも銀行のビジネスローンや融資とは違った特徴があるのです。
最も特徴的なのが、通常の融資では借りる企業の信用度が影響しますが、ファクタリングでは売掛先の企業の信用度が審査に影響します。そのため、売掛先企業の法人としての信用情報、経営状態、借入状況などが重要です。また、売掛金が入金されるまでの日数も関係してきます。
譲渡金が支払われてから、売掛金が入金されるまでの期間が短いほうが審査に通りやすくなります。ファクタリング会社にとっては、譲渡金の支払いから入金までの期間が短いほうがリスクを軽減できるためです。(※4)
二社間取引では、ファクタリングを申し込む企業の経営状態も重要となります。この場合、譲渡金の支払後、売掛金はいったんファクタリングを利用した会社へ支払われ、その後ファクタリング会社へ入金となるからです。そのため、申し込んだ会社の資金繰りや借入状況などが審査内容として重要になります。当然、事業主の誠実さや人柄、手続きに不備がないことも条件です。
売掛金が入金したにもかかわらず、ファクタリング会社へ支払われないという事態も考えられるからです。ファクタリング契約の際に譲渡登記ができるかどうかという点も審査に影響します。譲渡登記をすると、対象となる売掛金がファクタリング会社に譲渡されたものであることが公的に証明できるからです。
ファクタリング会社にとっては、確実に売掛金を回収できるメリットがあります。そのため、審査にも通りやすくなるのです。さらに、譲渡金の額が月商に対して多すぎると審査に通りにくくなります。譲渡金の希望額は月商の半額以下が目安です。ファクタリング会社にとっても譲渡債権は確実に回収したいものです。そのため、審査は慎重に行われます。(※5)
ファクタリング契約をするために必要な書類
ファクタリング契約に必要な書類は、ビジネスローンや融資を受ける時に提出する書類とは違うものもあります。契約するファクタリングの種類にもよりますが、審査にも影響する重要な書類なので事前に確認しておきましょう。審査に必要な書類としては、会社概要がわかる資料が求められます。
業歴や事業規模、事業内容などの情報が審査時に必要になるからです。また、会社の業績がわかる資料として、決算書や確定申告書の提出が必要です。
過去3年分の資料と申し込みをする年の試算表などが必要となることもあります。この資料では、会社の決算内容が審査の対象です。ただし、決算内容があまりよくない場合でも審査に通ることもあるため、決算内容だけで審査が決まるとも限らないといえます。
売掛金を証明する書類も提出する必要があります。ファクタリング契約の審査において、ファクタリング会社が最も重視する書類です。売掛先企業との業務基本契約書、発注書や納品書、請求書、過去の入金が確認できる通帳のコピーなどが証明書類となります。
業務基本契約書があることが最も望ましいとされますが、売掛先企業との継続的な取引を確認できる通帳のコピーが提出できれば審査に通ることもあります。
また、発注書や納品書、請求書は売掛債権の金額や売掛金の支払期日を確認するために使われる書類です。審査が通って契約する時には商業登記簿謄本と印鑑証明書の提出が求められます。身分証明書や住民票が必要となることもあります。(※6)
ファクタリングを利用するために必要なコスト
ファクタリングを利用する際には、手数料などのコストについても考える必要があります。ここでは、どのくらいの手数料がかかるのか、また手数料の内訳を見ていきましょう。
手数料の相場は二社間取引で、買取金額のおよそ20%から25%程度といわれています。手数料の内訳は、ファクタリング会社の利益、登記にかかる事務代行手数料、印紙代や税金、書類等の実費、紹介料です。このうち、ファクタリング会社が受け取る利益は35%程度といわれています。
手数料のうち最も割合が大きいのが、登記にかかる事務代行手数料で、手数料の40%程度です。債権譲渡登記や抹消登記の際にかかる報酬、債権譲渡契約書作成事務代行にかかる報酬が含まれます。印紙代や税金などにかかるコストは債権譲渡契約書印紙代が200円、債権譲渡登記にかかる登録免許税が7,500円、抹消登記にかかる登録免許税が1,000円、登記事項証明書交付にかかる手数料がオンラインで500円、その他振込手数料などという内訳です。
書類準備にかかる実費分としては、商業・法人登記簿謄本が600円、法人代表者登記印鑑証明書が450円、納税証明書は自治体によりますが200円から400円となっています。
ファクタリングの手数料は利用する会社にとっては負担が大きいものです。とはいえ、ファクタリング会社にとっても、特に二社間取引ではリスクが大きいため、その分手数料が高くなる傾向があります。そのため、手数料は売掛会社の信用度によっても変わってくるのです。
売掛会社が大手企業の場合や国、地方自治体である場合は手数料が安くなることもあります。また、初めての取引よりは過去に取引実績があるほうが信用度が高く、手数料を抑えられる可能性があるのです。さらに、買取金額が大きいほど、売掛金に占める手数料の割合が小さくなります。
そのため、手数料を抑えるには売掛会社の状況や取引状況を説明したり、買取金額によって手数料を下げてもらったりするなどの交渉が必要です。手数料はファクタリング会社によっても違いがあるので、相場を把握しておくことも重要となります。(※7)
ファクタリングを利用する際の注意点
企業にとってファクタリングを利用することは、できれば取引先に知られたくないことです。というのも、ファクタリングは資金調達を目的として利用するものなので、取引先にファクタリングを利用するほど資金調達に困っているのではないかと思われてしまう可能性があるからです。
そのため、売掛先に対してファクタリングを利用することに同意が必要となる三社間取引ではなく、売掛先に知られずに済む二社間取引のほうが利用しやすい傾向があります。ただし、二社間取引では手数料が高くなるという点に注意が必要です。
手数料は売掛金から差し引かれるため、その分ファクタリングサービスを利用する会社にとっては利益が減ってしまうことになります。
また、利用するファクタリング会社が本当に信用できる会社かどうかの見極めも重要です。あまりに手数料が高い場合は、他のファクタリング会社も検討してみる必要があります。すぐに資金調達が必要な状況でも手数料の相場を調べ、提示された手数料が妥当であるか冷静に判断しましょう。信用できるファクタリング会社を選ぶには情報収集が肝心です。(※8)
メリットや注意点をふまえて上手に利用!
ファクタリングは銀行からの融資とは違い、売掛金に対して資金が支払われます。そのため、担保が必要なく、審査も比較的簡単なのがメリットです。
銀行からの融資が受けられなかった場合に利用できます。一方で、三社間取引では、取引先にファクタリングを利用していることが知られてしまうというリスクがあります。また、利用するファクタリング会社や手数料についてもしっかりと検討する必要があるのです。サービスの利用には、しくみや手数料相場などの情報収集が欠かせません。
ファクタリングは欧米では歴史が長く、日本でも認められている資金調達手法です。うまく利用すれば金融機関の信用度を下げることなく、資金繰りを正常化できる賢い選択肢ともいえるでしょう。